親の退院が決まると、家族としては少し安心する一方で、「家に帰って本当に大丈夫かな」と不安になることもあります。
病院では歩けていたのに、自宅に帰った途端に困ることがあります。
病院の廊下は平らで広く、手すりも多く、ベッドの高さも調整されています。ところが自宅では、玄関の段差、夜間のトイレ、布団からの起き上がり、浴槽のまたぎ、狭い廊下など、生活の中でつまずきやすい場面がいくつもあります。
退院準備で大切なのは、いきなり介護用品を買いそろえることではありません。
まずは「家のどこで困りそうか」を確認することです。そのうえで、必要に応じてケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談し、レンタル・購入・住宅改修を考えていくと失敗しにくくなります。
この記事では、親の退院が決まった家族に向けて、自宅で確認したい場所別のチェックポイントと、福祉用具を準備するときの考え方をまとめます。
筆者は、福祉用具専門相談員として在宅介護の現場に関わってきました。この記事では、商品を先にすすめるのではなく、退院後の生活場面から必要な準備を考える流れで解説します。
退院前に家族が確認したいチェックリスト

退院日が近づいたら、まずは次の項目を確認してみてください。
- 玄関の上がり框を安全に上がれるか
- 靴の脱ぎ履きでふらつかないか
- 廊下や部屋の中を壁づたいで歩いていないか
- 夜中にトイレまで安全に行けるか
- 便座から立ち上がれるか
- 布団やベッドから一人で起き上がれるか
- 浴槽をまたげるか
- 浴室内で立ったまま洗えるか
- 家の中につかまる場所があるか
- 家族だけで介助できるか
- 本人が福祉用具を嫌がっていないか
すべてを完璧に整える必要はありません。
ただし、「少し危ないかも」と感じる場所は、退院後にそのまま転倒や介助負担につながることがあります。特に、玄関・トイレ・寝室・歩行・入浴は、退院直後に困りごとが出やすい場所です。
病院でできることと、自宅でできることは違う
退院直後によくあるのが、「病院では歩けていたのに、家では思ったより動けない」というケースです。
これは本人の気持ちの問題だけではありません。病院は段差が少なく、手すりが多く、動線も整理されています。自宅では、玄関の段差、夜間トイレ、浴室、家具の配置、布団からの起き上がりなど、生活場面ごとに条件が変わります。
そのため、退院前の準備では「病院でどれくらい歩けるか」だけでなく、「自宅のどの場面で困りそうか」を見ることが大切です。
玄関の段差でつまずかないか確認する

退院して自宅に戻ったとき、最初に困りやすいのが玄関です。
特に、昔ながらの家では上がり框が高く、20cmから40cmほどの段差があることもあります。病院では平らな廊下を歩けていても、自宅の玄関で足を上げる、方向転換する、靴を脱ぐ、家に上がるという動作が重なると、急に不安定になることがあります。
玄関で確認したいこと
- 上がり框を一人で上がれるか
- 靴の脱ぎ履きでふらつかないか
- つかまる場所があるか
- 玄関マットが滑らないか
- 段差の前後に十分なスペースがあるか
- 家族が介助する場所を確保できるか
退院日に手すり工事が間に合わないこともある
退院に合わせて手すり工事を考えていたものの、工事が退院日に間に合わないことがあります。
住宅改修は、介護保険を使う場合に事前申請が必要になることがあります。急いで工事を進める前に、ケアマネジャーや市区町村の窓口へ確認してください。
工事がすぐに難しい場合は、置き型手すりや突っ張り型手すりを一時的に検討することもあります。
玄関まわりで不安がある場合は、まず段差や上がり框の記事から確認すると、どこに手すりや支えが必要か考えやすくなります。
夜間トイレで転倒しないための準備をする

退院後の生活で、家族が不安を感じやすいのがトイレです。
日中は何とか歩けていても、夜中に寝ぼけた状態で起きると、足元がふらついたり、廊下で方向転換するときに転びそうになったりすることがあります。
特に注意したいのは、「昼間にトイレへ行けるから大丈夫」と判断してしまうことです。
夜間は照明が暗く、眠気もあり、急いでいることもあります。病院ではナースコールや手すりがあった人でも、自宅ではトイレまでの距離や段差が負担になることがあります。
トイレで確認したいこと
- 寝室からトイレまで安全に歩けるか
- 夜間に照明をつけやすいか
- 廊下やトイレ入口に段差がないか
- 便座から立ち上がれるか
- ズボンの上げ下ろし中にふらつかないか
- トイレ内につかまる場所があるか
- 失禁や間に合わない不安があるか
ポータブルトイレだけでなく動線も見る
トイレまでの移動が不安な場合は、まず動線の見直しをします。足元灯を置く、床の物を片付ける、滑りやすいマットを外すだけでも安全性が変わることがあります。
便座からの立ち上がりが難しい場合は、補高便座やトイレ用手すりを検討します。
夜間にトイレまで歩くこと自体が危ない場合は、ポータブルトイレを寝室近くに置く方法もあります。ただし、本人が嫌がることも多いため、いきなり置くのではなく、「夜だけ使う」「転倒予防のために一時的に考える」など、本人の気持ちに配慮して進めることが大切です。
夜間トイレや便座からの立ち上がりで不安がある場合は、ポータブルトイレだけでなく、補高便座や動線の見直しもあわせて確認してください。
- ポータブルトイレおすすめ5選
- ポータブルトイレはいつから必要?
- ポータブルトイレの選び方
- 親がポータブルトイレを嫌がる理由
- 夜間トイレが増えたら危険サイン?
- 夜間トイレの転倒リスクと対策
- 補高便座はいつから必要?
布団やベッドから起き上がれるか確認する
退院後に見落としやすいのが寝室です。
病院では電動ベッドで上体を起こせていた人が、自宅に戻って布団生活になると、起き上がりや立ち上がりで苦労することがあります。
「まだ介護ベッドは早い」と感じる家族も多いですが、介護ベッドは寝るためだけのものではありません。起き上がり、立ち上がり、介助、生活動線を支えるために役立つことがあります。
寝室で確認したいこと
- 布団から一人で起き上がれるか
- 起き上がったあとに立てるか
- 夜間トイレへ行く動線が安全か
- ベッドや布団の周りに物が多くないか
- 家族が介助するスペースがあるか
- こたつや床生活から立ち上がれるか
「まだベッドはいらない」と思っても起き上がりを確認する
退院後も「今まで通り布団で大丈夫」と考えていたものの、実際には起き上がりのたびに家族の介助が必要になることがあります。
また、本人が「ベッドはいらない」と言っていても、夜間トイレのたびに布団から立ち上がる動作が不安定になるケースもあります。
介護ベッドは購入よりレンタルで様子を見ることが多い福祉用具です。身体状態が変わる可能性がある退院直後は、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しながら考えると安心です。
寝室では、ベッドそのものよりも「起き上がり」「立ち上がり」「夜間トイレまでの動線」を見るのが大切です。
家の中を安全に歩けるか確認する

退院前に病院で歩行練習をしていても、自宅で同じように歩けるとは限りません。
病院の廊下は広く、床も平らで、手すりがあります。一方で自宅は、部屋の入口、敷居、家具、カーペット、狭い廊下、方向転換など、転びやすい条件が重なります。
歩行で確認したいこと
- 家の中で壁づたいに歩いていないか
- 杖だけでふらつかないか
- 歩行器を使うスペースがあるか
- 廊下や部屋の入口で方向転換できるか
- 段差や敷居につまずかないか
- 外出時だけでなく室内でも不安がないか
- 本人が杖や歩行器を嫌がっていないか
杖・歩行器・歩行車・車いすは役割が違う
杖は、軽いふらつきや片側の支えに向いています。ただし、両足の力が落ちている、体幹が不安定、家の中で壁づたいに歩いている場合は、杖だけでは不安なこともあります。
歩行器は、家の中でのふらつきや立位の不安を支える選択肢になります。ただし、室内の通路幅や段差によっては使いにくいことがあります。
歩行車やシルバーカーは、外出時の休憩や荷物運びに役立つことがありますが、身体状況によっては支えとして不十分な場合もあります。
車いすは「もう歩けない人だけのもの」と思われがちですが、退院直後の移動距離が長い場面や、通院・外出の負担を減らすために一時的に使うこともあります。
歩行まわりは、杖・歩行器・歩行車・車いすで役割が違います。退院直後は、本人の歩き方と家の通路幅を見ながら選ぶことが大切です。
- 歩行器おすすめランキング5選
- 室内用歩行器おすすめランキング5選
- 歩行器の選び方
- 室内用歩行器は必要?
- 家の中では歩行器を使わない親
- 杖だけでは危険なサイン
- 杖では危険?歩行器へ変えるタイミング
- 歩行器と歩行車の違い
- 車いすはいつから必要?
お風呂に安全に入れるか確認する

退院後、家族が心配しやすいのが入浴です。
お風呂は、滑る、またぐ、立つ、座る、方向転換するなど、転倒につながりやすい動作が多い場所です。本人が「家の風呂くらい入れる」と言っていても、実際には浴槽のまたぎや浴室内での立ち座りが難しいことがあります。
入浴で確認したいこと
- 浴槽を安全にまたげるか
- 浴室の床が滑らないか
- 立ったまま体を洗えるか
- シャワーチェアに座ったほうが安全ではないか
- 浴槽内で立ち上がれるか
- 脱衣所でふらつかないか
- 家族が介助するスペースがあるか
退院直後は「入れるか」より「安全に続けられるか」
入浴は一度できたかどうかだけで判断しないほうがよいです。
退院直後は体力が落ちていることもあり、入浴後に疲れてふらつくことがあります。浴槽をまたぐ動作が不安な場合は、浴槽台や浴槽グリップを検討します。立ったまま洗うのが不安な場合は、シャワーチェアが役立つことがあります。
入浴用品は、身体状態や浴室環境との相性が大切です。浴槽の高さ、浴室の広さ、手すりの位置、家族が介助できるかを確認してから選びましょう。
入浴は、退院直後に無理をしやすい場所です。浴槽をまたぐ不安がある場合は、シャワーチェアだけでなく浴槽台や浴槽グリップも候補になります。
退院前に買わなくていいもの
退院前だからといって、介護用品をすべて購入する必要はありません。
むしろ、身体状態が変わる可能性があるもの、家の環境との相性が大きいもの、高額なものは、購入よりも相談やレンタルを優先したほうがよいことがあります。
退院前にいきなり購入しないほうがよいもの
次のようなものは、状態や環境に合わせて選ぶ必要があります。
- 介護ベッド
- 車いす
- 歩行器
- 歩行車
- 手すり
- スロープ
これらは介護保険の福祉用具貸与や住宅改修と関係することがあります。対象になるかどうか、どの用具が合うかは、要介護度や身体状況、住宅環境によって変わります。
退院前に焦って買うより、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してから決めるほうが失敗しにくいです。
購入を検討しやすいもの
一方で、入浴や排泄に使うものは、レンタルになじみにくく、購入で考えることが多いものもあります。
- シャワーチェア
- 滑り止めマット
- 浴槽台
- 浴槽グリップ
- 補高便座
- ポータブルトイレ
- 杖の一部
ただし、これらもサイズや使い方を間違えると使いにくくなります。特にポータブルトイレや入浴用品は、本人の抵抗感や家の環境も関係します。
「必要そうだから買う」ではなく、「どの場面で困っているから必要か」を先に考えましょう。
ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に伝えること
退院前後に相談するときは、「何を借りたいか」だけでなく、「どの場面で困っているか」を伝えると話が進みやすくなります。
伝えたい内容
- 退院予定日
- 病名や手術後の状態
- 病院での歩行状態
- 家の中で不安な場所
- 夜間トイレの回数
- 布団かベッドか
- 浴槽の高さや浴室の広さ
- 玄関の段差
- 家族が介助できる時間帯
- 本人が嫌がっていること
たとえば、「歩行器がほしい」と伝えるよりも、「夜中にトイレへ行くとき、廊下でふらつきそうで不安です」と伝えるほうが、必要な福祉用具や環境調整を考えやすくなります。
退院前カンファレンスや退院前訪問がある場合は、自宅で不安な場所を具体的に伝えておきましょう。
本人が福祉用具を嫌がるとき
退院準備では、本人が福祉用具を嫌がることもあります。
「年寄り扱いされたくない」
「まだ大丈夫」
「家に物を置きたくない」
「トイレを寝室に置くなんて嫌だ」
こうした気持ちは自然なものです。
家族としては心配でも、いきなり「危ないから使って」と言うと、本人が反発してしまうことがあります。
伝えるときは、「もう歩けないから使う」ではなく、「今の生活を続けるために一時的に使う」「転ばないために選択肢を増やす」という言い方にすると受け入れやすいことがあります。
何から準備すればいいかわからない場合
退院準備で一番大切なのは、最初から完璧にそろえることではありません。
まずは、次の順番で考えてみてください。
- 家の中で困りそうな場所を確認する
- 転倒しやすい場面を優先する
- 本人が嫌がりそうなものは伝え方を考える
- 購入前にレンタルや介護保険の対象を確認する
- ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談する
迷ったときは、「どの商品がよいか」より先に、「どの生活動作で困っているか」を整理してみてください。
玄関で困るのか、トイレで困るのか、寝起きで困るのか、歩行で困るのか、入浴で困るのかによって、必要な対策は変わります。
退院準備で迷ったら、まずは「どの場面で困りそうか」を確認してみてください。玄関・トイレ・寝室・歩行・入浴の不安から、必要になりやすい福祉用具を整理できます。
退院準備で「何から始めればいいか」迷った方へ
退院後に必要なものは、病名や年齢だけでは決まりません。歩く力・トイレ・入浴・家の環境によって変わります。
今の状態から、確認しておきたい生活場面や必要になりやすい福祉用具を整理してみましょう。
現場の一言
退院直後は、「できる・できない」だけで判断しないことが大切です。病院でできた動作でも、自宅では環境が変わります。生活する場所を見ながら少しずつ整えていくことが、長く家で暮らす準備になります。
まとめ
親の退院が決まったとき、家族が最初にするべきことは、介護用品を一気に買うことではありません。
まずは、自宅の中で困りそうな場所を確認することです。
- 玄関の段差
- 夜間トイレ
- 布団からの起き上がり
- 家の中の歩行
- 浴槽またぎ
- 本人の抵抗感
このあたりを見ていくと、退院後に必要な準備が見えやすくなります。
福祉用具は、早すぎても使われないことがありますし、遅すぎると転倒や介助負担につながることがあります。
退院前後は状態が変わりやすい時期です。焦って買いそろえるのではなく、必要な場所から順番に確認し、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談しながら準備していきましょう。

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