「認定調査の日、親がいつもより元気に振る舞ってしまった」
「聞かれなかったから、夜のことは話さないままだった」
福祉用具の相談で在宅を回っていると、認定調査が終わったあとのご家族から「どうだったか」を聞く機会がよくありました。多かったのは、そういう日に限って本人ができてしまった、本人が「できます」と答えてしまったという話です。人が来ると、よく見せようとするんです。そして「聞かれなかったから言わなかった」と、あとから気づく。
要介護認定の認定調査は、1回1時間ほどで終わります。その短い時間で、調査員は普段の生活を把握しなければなりません。
この記事では、認定調査で何が見られているのか、家族は何を伝えればいいのかを、厚生労働省の「認定調査員テキスト」に書かれている内容をもとに整理します。
先に断っておくと、これは介護度を重く見せるための記事ではありません。調査は短時間の切り取りなので、実際の生活とズレが出やすい。そのズレを埋めるという話です。テキスト自身が、家族からの聞き取りを前提に作られています。
要介護認定 関連記事の役割整理
この記事は「認定調査の当日に何をどう伝えるか」を確認する記事です。申請の手順は要介護認定の申請方法と手順、結果に納得できないときは介護保険の区分変更申請、制度全体の仕組みは介護保険制度の基本で確認してください。
調査員の判断や自治体の運用には幅があるため、個別の対応は担当ケアマネジャーまたはお住まいの市区町村へご確認ください。
結論|要介護認定は「病気の重さ」ではなく「介護の手間」で決まる
ここが最初のつまずきどころです。要介護認定は病名や状態の重さで決まるのではありません。決めているのは介護にどれだけ手間(時間)がかかっているかです。
厚生労働省の認定調査員テキストには、こう書かれています。
要介護認定の評価軸は、介護の手間の総量であることから、こういった状態像から、認定をすることはできない
一次判定は、介護施設の高齢者約3,400名に実際に提供された介助内容と時間を記録した「1分間タイムスタディ」というデータをもとにしています。調査結果をこのデータと突き合わせて、要介護認定等基準時間という「介護にかかる推計時間」を出し、そこから要介護度が決まります。
だから家族が伝えるべきなのは、「どんな症状があるか」ではなく「そのために誰が、何を、どれくらいの頻度でしているか」です。ここが記事全体を通しての結論です。
認定調査で何が行われているか
調査票は3種類あります
| 調査票 | 内容 | 使われ方 |
|---|---|---|
| 概況調査 | 今受けているサービス、家族状況、住宅環境、傷病・既往歴など | 参考情報 |
| 基本調査 | 74項目の選択式 | 一次判定に直接使われる |
| 特記事項 | 選んだ根拠や、具体的な介護の手間を文章で記載 | 二次判定の根拠になる |
家族にとって重要なのは、基本調査と特記事項の関係です。あとで詳しく説明します。
基本調査74項目の中身
| 群 | 内容 | 項目数 |
|---|---|---|
| 第1群 | 身体機能・起居動作(麻痺、拘縮、寝返り、起き上がり、座位保持、立位、歩行、立ち上がり、洗身、つめ切り、視力、聴力) | 13 |
| 第2群 | 生活機能(移乗、移動、えん下、食事摂取、排尿、排便、口腔清潔、洗顔、整髪、上衣・ズボンの着脱、外出頻度) | 12 |
| 第3群 | 認知機能(意思の伝達、日課の理解、生年月日、短期記憶、名前、季節、場所の理解、徘徊、外出すると戻れない) | 9 |
| 第4群 | 精神・行動障害(被害的、作話、感情が不安定、昼夜逆転、同じ話、大声、介護に抵抗、「家に帰る」、目が離せない、収集、物を壊す、ひどい物忘れ、独り言、自分勝手な行動、話がまとまらない) | 15 |
| 第5群 | 社会生活への適応(薬の内服、金銭の管理、日常の意思決定、集団への不適応、買い物、簡単な調理) | 6 |
| その他 | 過去14日間に受けた特別な医療(点滴、透析、ストーマ、酸素療法、経管栄養、じょくそうの処置、カテーテルなど) | 12 |
身体のことだけでなく、認知機能と行動面が合わせて24項目あります。「歩けているから軽く見られる」と心配される方が多いのですが、判定は身体機能だけで決まるわけではありません。
項目は3つの軸のどれかで評価されます
- 能力……できるかどうか。危険がなければ、実際にやってもらうのが原則
- 介助の方法……実際に介助が行われているかどうか
- 障害や現象(行動)の有無……頻度で選ぶ
調査当日、本人は「よく見せる」
これは、ほとんどの家庭で起こります。責めるような話ではありません。知らない人が家に来て「やってみてください」と言われれば、誰でも姿勢を正します。長年しっかりしてきた人ほどそうです。
その結果、普段は手すりにつかまってやっと立つ人が、その日はすっと立ってしまう。夜中に何度もトイレで起きているのに、本人は「ちゃんと寝ています」と答えてしまう。
その日できても、それだけで決まるわけではありません
認定調査員テキストには、こう定められています。
調査時の環境が日頃の環境と異なったり、調査対象者の緊張等により日頃の状況と異なっていると考えられる場合、時間や状況によって、できたり、できなかったりする場合は、より頻回に見られる状況や日頃の状況について聞き取りを行い、一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づいて選択する
つまり「調査日にできたかどうか」ではなく「過去1週間で、どちらが多いか」で選ぶのがルールです。行動面(第4群)については過去1か月の頻度で見ます。
ただし、伝えなければ調査員は知りようがありません
ここが肝心なところです。ルールでは「聞き取りを行い」となっていますが、調査員はその家の普段を見ていません。1時間の訪問で分かることには限りがあります。
家族が「実際は違います」と言わなければ、目の前で起きたことがそのまま記録されます。遠慮して黙ってしまうのが、いちばんもったいないのです。
伝えるべきは「症状」ではなく「手間」
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
認定調査員テキストには、審査会が何を根拠に判断するかについて、具体例つきで書かれています。
| 伝え方 | 審査会での扱い | |
|---|---|---|
| × | 「ひどい物忘れによって、認知症のさまざまな周辺症状がある」 | この情報だけでは判断しない |
| ○ | 「認知症によって、排泄行為を適切に理解することができないため、家族が常に、排泄時に付き添い、あらゆる介助を行わなければならない」 | 具体的な手間とその多少が示されて、はじめて根拠になる |
違いは「誰が・何を・どれくらい」があるかどうかです。
言い換えの練習
| つい言ってしまう言い方 | 手間が伝わる言い方 |
|---|---|
| 夜、よく起きます | 夜中に2〜3回トイレで起きて、そのたびに私が起きて手を貸しています。ほぼ毎晩です |
| 足が弱ってきました | トイレまで10メートルを、私が横について5分かかります。1日6〜7回です |
| 物忘れがひどいです | 薬を飲んだことを忘れるので、朝昼晩とも私が目の前で飲むのを確認しています |
| お風呂を嫌がります | 入浴を促すのに毎回30分ほど説得が必要で、週2回とも私が洗身を全部介助しています |
| ときどき怒ります | 介助しようとすると手を払われることが週に3〜4回あり、そのたびに中断して時間をおいています |
コツは「頻度」と「かかっている時間」を数字で言うことです。テキストでも、特記事項に書くときのポイントとして「選択根拠」「手間」「頻度」の3つが挙げられています。
特記事項に書かれたことだけが、一次判定を変えられます
認定は2段階で決まります。
- 一次判定……基本調査74項目をコンピュータが処理して、要介護度の案を出す
- 二次判定……介護認定審査会が、一次判定を確定または変更する
そして、二次判定で一次判定を変更できる条件が、テキストにはっきり書かれています。
統計的な推定になじまない、申請者固有の手間が特記事項や主治医意見書の記載内容から具体的に認められる場合は、必ずしも一次判定の結果に縛られずに要介護度の変更を認めることができる
一次判定の変更には、特記事項または主治医意見書に記載されている介護の手間を根拠とすることが必須の条件といえる
つまり特記事項か主治医意見書に書かれていない事情は、審査会では存在しないのと同じということです。
ちなみに、この認定調査票と主治医意見書は、介護情報基盤で電子的に共有される対象になっています。2026年4月から市町村ごとに順次はじまっており、認定にかかる期間が短くなることが期待されています。仕組みは介護情報基盤とは?で解説しています。
家族が調査員に伝えた内容は、特記事項という形で審査会に届きます。だから「伝える」と「書かれる」がつながっているのです。
74項目に当てはまらないことも、伝える意味があります
テキストには、基本調査の項目に該当がなくても、類似の行動などで具体的な介護の手間が生じていることが聞き取りで確認された場合は、関連する項目の特記事項に手間の内容と頻度を記載して、審査会の判断を仰ぐことができると書かれています。
「この項目には当てはまらないから言っても仕方ない」と考える必要はありません。
介助のしかたが適切でないと判断された場合
実際には介助されていない、あるいは行われている介助が対象者にとって適切でないと調査員が判断した場合は、その理由を特記事項に記載したうえで、適切な介助の方法を選んで審査会の判断を仰ぐことができるとされています。
「今は誰も手伝えていない」という状態も、隠さずに伝えてよいということです。
手すりや歩行器を使っている場合は「使った状態」で評価します
福祉用具を使っている方から、よく聞かれることです。「調査の日は杖を外したほうがいいですか」と。
外す必要はありません。テキストにはこう書かれています。
「能力」や「介助の方法」については、日常的に自助具、補装具等の器具・器械を使用している場合で、使用していることにより機能が補完されていれば、その状態が本来の身体状況であると考え、その使用している状況において選択する
普段どおり、使っている状態で見てもらうのが正しいやり方です。無理に外して見せると、転倒の危険があるうえに、普段の生活とも違ってしまいます。
なお、概況調査には福祉用具の利用品目数や住宅改修の実施の有無を記入する欄があります。ただし住環境そのものを根拠に介護度が変わることはありません(テキストでも「置かれている環境等を根拠に二次判定での変更を行うことは認められておらず、あくまで参考の情報として扱う」とされています)。あくまでそこで発生している介護の手間を伝えることが大切です。
どんな福祉用具が借りられるかは要支援1・要介護1で借りられる福祉用具は?にまとめています。
家族の同席は、制度上の前提です
「家族が口を出すと印象が悪いのでは」と気にされる方がいますが、その心配は要りません。認定調査員テキストには、こう書かれています。
家族等の介護者がいる在宅の調査対象者については、介護者が不在の日は避けるようにする。(やむを得ず介護者不在で調査を行った場合は、特記事項に記載する。)
介護している家族がいる日に調査を行うのが原則です。調査日時も「調査対象者や家族等、実際の介護者と調整した上で」決めることになっています。
調査場所も「原則として日頃の状況を把握できる場所」とされています。普段暮らしている場所で受けるのが基本です。
本人の前で言いにくいこと
失禁や物忘れなど、本人の前では言いにくいこともあります。その場合は、
- あらかじめメモにして調査員に渡す
- 調査のあとに別室や玄関先で伝える
- ケアマネジャーがいれば事前に共有しておく
といった方法があります。本人の自尊心を傷つけずに事実を伝えるほうが、結果としてうまくいきます。
調査の前に用意しておくとよいもの
その場で思い出そうとすると、たいてい抜けます。1週間ほど前から、気づいたことを書き留めておくと確実です。
- 1日の流れ……起床から就寝まで、どこで手を貸しているか
- 夜間の様子……何回起きるか、そのたびに誰が対応しているか
- できる日とできない日の差……調子のよい日と悪い日が、週にどれくらいの割合か
- 困っている行動……いつ、どれくらいの頻度で起きるか
- 使っている福祉用具……何を、どの場面で使っているか
- 飲んでいる薬と管理のしかた……誰が管理しているか
調査は申請から30日以内に認定が出るように進みます。調査の日程が決まったら、そこから逆算して準備しておくと落ち着いて臨めます。
結果に納得できないとき
認定結果が実態と合わないと感じたら、次の方法があります。
- 区分変更申請……状態が変わったときに、有効期間の途中でも申請できます。詳しくは介護保険の区分変更申請とは?で解説しています
- 審査請求(不服申立て)……都道府県の介護保険審査会に申し立てる制度です。ただし結論が出るまでに時間がかかるため、実務上は区分変更申請を選ぶことが多くなります
- 例外給付……介護度を変えずに、福祉用具だけを対象にしてもらう方法です
それぞれ何日かかって、介護度が下がる可能性があるのはどれかは要介護認定の結果に納得いかないときは?で整理しています。
まずは担当のケアマネジャー、いなければ地域包括支援センターに相談してください。
よくある質問
Q. 本人が「できます」と言い張ります。その場で否定していいですか?
A. 本人の前で強く否定すると、その後の調査がぎくしゃくすることがあります。「本人はそう言っていますが、あとで補足させてください」とだけ伝えて、調査後や別室でまとめて話す方法があります。メモを渡すのも有効です。
Q. 認定調査は何分くらいかかりますか?
A. おおむね1時間程度です。74項目の確認に加えて聞き取りがあるため、伝えたいことは事前に整理しておくとスムーズです。
Q. 調査の日にたまたま調子がよかったら、やり直せますか?
A. 原則としてやり直しはありません。ただし、1回目の調査で再調査が不可欠と判断された場合に限り、別の調査員による2回目の調査が行われることがあります。まずは調査員に「普段はこうです」と伝えることが先です。
Q. 「介護度を重くしてほしい」と頼んでもいいですか?
A. 認定は介護の手間の総量で機械的に決まる仕組みなので、要望で変わるものではありません。伝えるべきは希望ではなく、実際に起きている手間の内容と頻度です。そのほうが結果的に実態に合った認定に近づきます。
Q. 施設や病院にいる場合はどうなりますか?
A. 入院・入所先で調査が行われます。この場合、日頃の様子を知っているのは施設のスタッフになるため、家族が知っている在宅時の様子や、面会時に気づいたことを伝えておくと情報が補われます。
Q. 認定結果はいつ届きますか?
A. 申請から30日以内に行われることになっています。ただし主治医意見書の作成や審査会の日程によって、これを超える場合は市区町村から延期の通知が届きます。
まとめ
- 要介護認定は病気の重さではなく「介護の手間(時間)」で決まる
- 調査当日、本人はよく見せようとする。これはほとんどの家庭で起こる
- ルールでは「過去1週間(行動面は1か月)で頻回な状況」で選ぶことになっている。ただし伝えなければ調査員は知りようがない
- 伝えるべきは「症状」ではなく「誰が・何を・どれくらいの頻度でしているか」
- 特記事項か主治医意見書に書かれた介護の手間だけが、一次判定を変える根拠になる
- 手すりや歩行器は外さない。使っている状態で評価するのがルール
- 家族の同席は制度上の前提。介護者が不在の日は避けることになっている
調査は短時間の切り取りです。そのズレを埋めるのが家族の役割で、それは制度が想定していることでもあります。遠慮せずに、普段の様子を具体的に伝えてください。
参考資料
- 厚生労働省「認定調査員テキスト2009改訂版」(現行版は令和6年4月改訂)
- 厚生労働省「要介護認定」
※内容は2026年8月時点のものです。調査員の判断や自治体の運用には幅があるため、個別の対応は担当ケアマネジャーまたはお住まいの市区町村の介護保険担当窓口へご確認ください。
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