「最近、玄関で足がもつれそうになった」「靴を履く時にふらついて壁に手をついた」——そんな経験が増えてきていませんか。玄関は毎日使う場所だからこそ、ちょっとした危険に気づきにくい場所でもあります。元福祉用具専門相談員として15年間、退院後の自宅訪問や住環境整備に携わってきた私が、現場で実際に見てきた「転びやすい玄関の特徴」と、今日からできる対策をお伝えします。
玄関で転倒が起きやすい理由
玄関は、家の中でも特に転倒リスクが高い場所です。理由は複数の「危険な動作」が重なるからです。靴を脱ぎ履きするために前かがみになり、段差を越えるために片足立ちになり、荷物を持ったまま向きを変える——これらの動作が一度に集中する場所はほかにありません。
加えて、玄関は照明が暗かったり、床材が滑りやすかったりすることも多く、高齢になるほどバランスを崩しやすくなります。「ここは何十年も使い慣れた場所だから大丈夫」という油断が、かえって危険を見落とす原因になりがちです。
玄関で転びやすい家の特徴5つ
1. 上がり框の段差が高い
上がり框(玄関の段差部分)は、一般的に15〜20cm程度の高さがあります。若いうちは意識せずに越えられますが、足が上がりにくくなると、この段差がつまずきの原因になります。特に降りる時は体重が前にかかりやすく、膝が不安定な方はバランスを崩すリスクが高まります。
現場で多く見てきたのは、上がり框を降りる際に「足先が段差に引っかかる」ケースです。本人は「降りられている」と思っていても、実は足がかろうじて越えている状態のことも多く、疲れている時や体調が悪い日にヒヤリとする、というパターンが非常に多かったです。
2. つかまる場所がない
靴を履くとき、脱ぐとき、向きを変えるとき——これらの動作はすべて一時的に不安定な姿勢になります。壁や下駄箱の角に手をあてている方を見かけることがありますが、これは「手すりが欲しいサイン」です。
玄関の手すりは、廊下や浴室の手すりと比べて後回しにされがちですが、実は転倒予防の効果が高い場所の一つです。段差の近く、靴の脱ぎ履きをする位置の近くに設置することで、日常の動作を大きく安定させることができます。
3. 靴や物が散らかっている
玄関に出しっぱなしの靴、玄関マット、傘立て、段ボール箱——これらが足元にあるだけで、つまずきのリスクが一気に上がります。特に玄関マットは、端がめくれていたり、床との摩擦が弱くなっていたりすると、乗った瞬間に滑ることがあります。
訪問した家庭で「玄関マットは大丈夫ですよ」とおっしゃる方のマットを確認すると、裏面の滑り止めが劣化していたというケースが何度もありました。見た目には気づきにくいので、定期的に裏面を確認する習慣をつけましょう。
4. 照明が暗い・スイッチが遠い
朝の暗い時間帯や夜間の外出・帰宅時に、照明が暗い玄関は特に危険です。段差の位置が見えにくくなり、足元の判断が遅れます。また、靴を履いてからスイッチを消して外へ出るという動作は、暗くなった状態で段差を越えることになるので要注意です。
センサーライトや足元灯を設置するだけで、このリスクは大幅に下げられます。工事不要で設置できるタイプも多く、手軽にできる対策の一つです。
5. 靴の脱ぎ履きが座ってできない
立ったまま靴を脱ぎ履きすることは、思っている以上にバランスを崩しやすい動作です。片足立ちになって靴に手を伸ばす姿勢は、足腰が弱くなるほど不安定になります。
椅子や腰かけベンチを玄関に置くだけで、この動作は大きく安定します。場所をとるのが心配な場合は、折りたたみ式の踏み台兼腰かけタイプも選択肢に入ります。
危険になりやすい動作と場面
- 靴を履く時に片足立ちになる(特に紐靴)
- 段差を降りる時に膝が不安定になる
- 荷物を両手に持って上がり框を越える
- 雨の日に濡れた靴底で床が滑る
- 急いで外へ出ようとする(気持ちが先行して足元がおろそかに)
- 朝・夜など照明の暗い時間帯に移動する
- 体調が悪い日や疲れた帰宅時
今日からできる玄関の転倒予防
まずは足元を片付け、通り道を広くすることから始めましょう。靴は必要な分だけ出す、玄関マットの裏面を確認する、照明を明るくする——これだけでもリスクは下がります。
上がり框が高い場合は、踏み台を置く方法と、住宅改修で手すりを設置する方法があります。踏み台は介護保険の対象外ですが、工事不要の手すりは比較的安価に設置でき、賃貸でも使えるタイプがあります。
靴の脱ぎ履きに不安がある場合は、椅子やベンチを置くことをおすすめします。玄関に椅子を置くと狭くなるかもしれませんが、片足で靴を履く危険と、少し狭くなる不便を比べれば、椅子を置く方が安全です。
手すり設置の効果と設置のポイント
玄関への手すり設置は、介護保険の住宅改修費(上限20万円)を使うことができます。要支援・要介護の認定を受けていれば、自己負担1〜3割で設置できます。
設置の際に意識したいポイントは以下の通りです。
- 段差の降り口の近く(体重をかけながら降りる動作を支える位置)
- 靴の脱ぎ履きをする場所の近く(前かがみ・片足立ちを安定させる)
- 高さは利用者の手首から床までの高さが目安(おおよそ75〜85cm)
- 縦向きと横向きの両方を設置すると、立ち上がりと移動の両方に使いやすい
すぐに住宅改修を決断するのが難しい場合は、工事不要の突っ張りタイプの手すりから試してみる方法もあります。どの位置にあると使いやすいかを確認してから工事に進むと、設置後の後悔を防げます。
よくある質問(FAQ)
Q. 上がり框の段差は何センチ以下なら安全ですか?
一般的には10cm以下が目安とされています。ただし、足の上がりやすさや膝の状態によって個人差があります。段差の高さだけでなく、手すりや踏み台など「支えがあるか」が重要で、段差が低くても支えがない状態の方が危険なケースもあります。
Q. 玄関の手すりは介護保険で設置できますか?
はい、要支援・要介護の認定を受けていれば、介護保険の住宅改修費(上限20万円)を使って玄関の手すりを設置できます。ただし工事前にケアマネジャーへの相談と市区町村への事前申請が必須です。工事後の申請では補助が受けられないので注意してください。
Q. 玄関マットは撤去した方がいいですか?
滑り止めが劣化したものや、端がめくれやすいものは撤去した方が安全です。玄関マットを使う場合は、裏面全面に滑り止め加工がされたものを選び、定期的に固定状態を確認しましょう。ズレ防止テープで床に固定する方法も有効です。
まとめ
玄関での転倒は、段差の高さ、支えのなさ、足元の物、暗い照明、急いだ動作が重なって起こりやすくなります。「ここは毎日使い慣れた場所」という感覚が、危険への気づきを遅らせてしまうことも多いです。
「まだ大丈夫」と思っていても、壁や下駄箱に手をつくことが増えてきたら、それは見直しのサインです。まずは足元の整理と照明の確認から始め、必要であれば手すりや椅子の設置を検討してみてください。生活動線に合わせた小さな工夫が、毎日の安全を守ることにつながります。
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