「介護保険ってどのくらい使えるの?」「限度額を超えたら全額自己負担になるって本当?」――そんな疑問を持つ方は多いです。介護保険には「区分支給限度額」という1か月に使えるサービスの上限額が設定されています。これを知らないまま使い続けると、気づいたら全額自己負担になっていた、ということも起こります。この記事では、元福祉用具専門相談員が区分支給限度額のしくみ、要介護度別の上限額、限度額をオーバーした時の対処法をわかりやすく解説します。
区分支給限度額とは何か
区分支給限度額とは、要介護度ごとに決まった「1か月に介護保険が使えるサービスの上限額」のことです。「区分」は要介護度の区分(要支援1・2、要介護1〜5)を指します。
正式には「区分支給限度基準額」といいます
役所の文書やケアマネジャーの説明で目にするのは、たいてい「区分支給限度基準額」という言い方です。こちらが法律上の正式名称で、介護保険法にはさらに正確な名前が書かれています。
| 正式名称 | 根拠 | |
|---|---|---|
| 要介護1〜5 | 居宅介護サービス費等区分支給限度基準額 | 介護保険法 第43条第1項 |
| 要支援1・2 | 介護予防サービス費等区分支給限度基準額 | 介護保険法 第55条第1項 |
「区分支給限度額」「支給限度額」「限度額」も同じものを指しています。どれも間違いではありませんので、書類で表記が揺れていても心配しなくて大丈夫です。
限度額の枠に入るのは居宅サービスと地域密着型サービスです。条文はここから地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(定員29人以下の特別養護老人ホーム)を明文で除いています。施設に入所して受けるサービスは、そもそもこの枠の外です。
限度額は「円」ではなく「単位」で決まっている
ここを押さえると、あとの話がすべて分かりやすくなります。介護保険のサービスは「単位数」で計算され、限度額も単位数で決まっています。そして1単位が何円になるかは、住んでいる地域と、使うサービスの種類で変わります。

1単位の単価は、次の式で決まります。
1単位の単価 = 10円 + 10円 × 地域の上乗せ割合 × サービスの人件費割合
地域の上乗せ割合は「地域区分」といい、全国の市区町村が8つに分けられています。
| 地域区分 | 上乗せ割合 | 人件費割合70%のサービスの1単位 |
|---|---|---|
| 1級地(東京23区など) | 20% | 11.40円 |
| 2級地 | 16% | 11.12円 |
| 3級地 | 15% | 11.05円 |
| 4級地 | 12% | 10.84円 |
| 5級地 | 10% | 10.70円 |
| 6級地 | 6% | 10.42円 |
| 7級地 | 3% | 10.21円 |
| その他 | 0% | 10.00円 |
人件費割合はサービスの種類ごとに3段階で決まっています。
- 70%……訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、福祉用具貸与、居宅療養管理指導、居宅介護支援など
- 55%……訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護など
- 45%……通所介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、施設サービスなど
つまり1単位の単価は、いちばん高くて11.40円、いちばん安くて10円です。「だいたい10円」で計算しても大きくは外れませんが、都市部では1割ほど高くなることは知っておいてください。同じ要介護3・27,048単位でも、東京23区で人件費割合70%のサービスだけを使えば約308,347円、その他の地域なら約270,480円です。
単位数が全国共通なのに金額が地域で変わるからこそ、限度額は円ではなく単位で管理されています。ケアマネジャーが「今月あと何単位」と言うのはこのためです。
要介護度別の区分支給限度額(2026年度)
要介護度別の支給限度基準額は以下のとおりです。数値は「居宅介護サービス費等区分支給限度基準額及び介護予防サービス費等区分支給限度基準額」(平成12年2月10日厚生省告示第33号)で定められています。この告示の最後の改正は平成31年3月28日厚生労働省告示第101号で、令和元年10月1日から適用されました。それ以降は変わっていないので、2026年度も同じ数字です。

| 要介護度 | 支給限度基準額(単位) | 目安の金額(1単位=10円) | 1割負担の場合の自己負担上限目安 |
|---|---|---|---|
| 要支援1 | 5,032単位 | 約50,320円 | 約5,032円 |
| 要支援2 | 10,531単位 | 約105,310円 | 約10,531円 |
| 要介護1 | 16,765単位 | 約167,650円 | 約16,765円 |
| 要介護2 | 19,705単位 | 約197,050円 | 約19,705円 |
| 要介護3 | 27,048単位 | 約270,480円 | 約27,048円 |
| 要介護4 | 30,938単位 | 約309,380円 | 約30,938円 |
| 要介護5 | 36,217単位 | 約362,170円 | 約36,217円 |
※自己負担は所得に応じて1〜3割です。表は1割負担の場合の目安です。実際の金額は地域や事業者によって異なります。
この金額を見ると「こんなに使えるの?」と思う方もいますが、実際に上限まで使い切る方は多くありません。多くの方は限度額の5〜6割程度を利用しています。ただし、多くのサービスを組み合わせると上限に近づくことがあるため、管理が重要です。
限度額は全国一律ではない|市町村が変えられる2つの仕組み
ここはほとんど知られていませんが、介護保険法は市町村に2つの権限を与えています。お住まいの市区町村によっては、上の表と条件が違うことがあります。
① 市町村は限度額を上乗せできる(法第43条第3項)
条文は「市町村は、条例で定めるところにより、区分支給限度基準額に代えて、その額を超える額を、当該市町村における区分支給限度基準額とすることができる」と定めています。要支援の人については第55条第3項に同じ規定があります。
つまり国が決めた単位数は「下限」ではなく標準で、市町村は条例で上に積めるということです。財源は市町村が負担するため実施している自治体は多くありませんが、「全国一律だから仕方ない」とは限りません。
② 市町村はサービスの種類ごとに上限を設けられる(法第43条第4項・第5項)
こちらは逆向きです。市町村は条例で「種類支給限度基準額」を定め、サービスの種類ごとに使える上限を設けることができます。区分支給限度基準額の範囲内で設定されます。
地域にその種類の事業所が少なく、供給が追いつかない場合に、特定のサービスへ利用が集中しないようにする仕組みです。実務上は「区分の枠はまだ余っているのに、このサービスはこれ以上増やせない」という形で現れます。心当たりがあれば、ケアマネジャーに種類支給限度基準額が設定されていないか確認してください。
限度額を超えたらどうなるのか
限度額を超えた分は、介護保険が一切適用されず、全額(10割)が自己負担になります。これは非常に大きな差です。
具体的な例で考えてみましょう。
要介護1(限度額16,765単位)で、100単位オーバーした場合。
通常の自己負担(1割)なら100単位×1円=100円で済むところが、超えた分は全額負担になるため、100単位×10円=1,000円の自己負担になります。これが毎月続くと年間12,000円の差になります。
オーバーする単位数が多ければ多いほど、自己負担額は急増します。「少し超えるだけだから大丈夫」と思わず、毎月の管理を徹底することが大切です。
超えた分は高額介護サービス費でも戻ってきません
自己負担が重くなったときに払い戻しを受けられる高額介護サービス費という制度があります。ただし限度額を超えて全額自己負担になった分は、高額介護サービス費の対象になりません。対象はあくまで介護保険が適用されたサービスの1〜3割負担の部分です。
ここが「超えたら全額自己負担」がとくに重い理由です。高額介護サービス費の申請方法もあわせて確認してください。
限度額内に収めるための管理のコツ
限度額内に収めるためには、毎月の単位数の管理が欠かせません。以下のポイントを参考にしてください。
- ケアマネジャーに毎月の単位数を確認する:ケアプランには月々の利用単位数が記載されています。わからない場合は遠慮なく確認を求めましょう
- サービスの優先順位を整理する:どのサービスが最も必要かを定期的に見直す。限度額に近づいたら優先度の低いサービスを調整する
- 福祉用具レンタルの単位数に注意する:介護ベッドや車いすのレンタルは毎月一定の単位数を使います。複数レンタルすると積み上がりやすい
- 急な入院・退院後の変化に注意する:退院直後はサービスが増えやすく、一時的に限度額をオーバーすることがある。ケアマネジャーに事前に相談する
福祉用具のレンタルも限度額に含まれます
見落とされやすいのがここです。福祉用具貸与(レンタル)は区分支給限度額の枠の中にあり、毎月決まった単位数を使い続けます。訪問介護やデイサービスのように「使った回数だけ」ではなく、借りている間はずっと積み上がるのが特徴です。
介護ベッド一式・車いす・手すり・スロープと増やしていくと、それだけで枠を圧迫します。限度額が苦しくなったとき、まず見直せるのは「今つかっていない用具が残っていないか」です。状態が変わって使わなくなった用具がそのままになっている、というのは現場でよくありました。
一方で特定福祉用具販売(購入)と住宅改修は限度額の外です。シャワーチェアやポータブルトイレの購入、手すりの取り付け工事は、限度額が逼迫していても使えます。介護保険でレンタルできる福祉用具の早見表で種目ごとの扱いを確認できます。
限度額をオーバーしてしまった時の対処法
もし限度額をオーバーしてしまった場合、以下の対処法を検討してください。
1. ケアマネジャーに相談してサービスを調整する
まず担当のケアマネジャーに連絡し、どのサービスで超えているのかを確認しましょう。サービスの利用頻度や内容を見直すことで、次月から限度額内に収められることが多いです。
2. 区分変更申請を検討する
現在の要介護度が実際の状態と合っていない場合、区分変更申請を行うことで、上位の要介護度に変更され、限度額が上がることがあります。ただし、必ずしも区分が上がるとは限りません。
3. 限度額に含まれないサービスを活用する
区分支給限度額に含まれないサービスもあります。これらを上手に活用することで、全体の負担を軽減できます。
区分支給限度額に含まれないサービス
限度額の枠に入らないものは、大きく3つに分かれます。
① 限度額が適用されないサービス
厚生労働省の資料は、次の5つを「限度額が適用されないサービス」として挙げています。いずれも報酬の仕組みそのもので上限が決まるため、区分の枠では管理しません。
- 居宅療養管理指導……医師・歯科医師・薬剤師などが自宅を訪問して行う管理・指導
- 特定施設入居者生活介護(外部サービス利用型を除く/短期利用を除く)……介護付き有料老人ホームなど
- 認知症対応型共同生活介護(短期利用を除く)……グループホーム
- 地域密着型特定施設入居者生活介護(短期利用を除く)
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護……定員29人以下の特別養護老人ホーム
※外部サービス利用型の特定施設入居者生活介護については、要介護度に応じた限度単位数が別に設定されています。また施設サービス(特養・老健・介護医療院)は、そもそも在宅のサービスではないので限度額の枠外です。
② 別枠で上限が決まっているもの
- 住宅改修費……手すりの設置、段差解消など。上限20万円の別枠
- 特定福祉用具販売(購入)……シャワーチェア、ポータブルトイレなど。年間10万円の別枠
この2つは在宅介護で必要になることが多く、限度額が逼迫していても使えます。「もう枠がないから手すりは付けられない」ということはありません。
③ ケアプランの作成費(居宅介護支援)
ケアマネジャーがケアプランを作り、事業者と連絡調整を行う居宅介護支援も限度額の外です。しかもこれは全額が介護保険から給付されるので、利用者の負担はありません。「相談すると料金がかかるのでは」と遠慮する必要はまったくありません。
限度額の枠外になる「加算」がある
もうひとつ、知っておくと安心なことがあります。サービスに付く加算のうち、いくつかは限度額の対象外に置かれています。政策的な配慮によるもので、厚生労働省の資料では次のように整理されています。
- 特別地域加算/中山間地域等における小規模事業所加算/中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算……交通の便が悪い地域の事業所を支えるもの
- 介護職員処遇改善加算/サービス提供体制強化加算……介護職員の処遇改善に関するもの
- 緊急時訪問看護加算/特別管理加算/ターミナルケア加算……医療ニーズへの対応(訪問看護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型居宅介護)
- 総合マネジメント体制強化加算/訪問体制強化加算/訪問看護体制強化加算……在宅生活の継続を支えるもの
つまり「処遇改善加算がついたぶん、使えるサービスが減る」ということはありません。明細に加算が並んでいると枠を圧迫しているように見えますが、上に挙げたものは限度額の管理に含まれません。
特に「住宅改修費」と「特定福祉用具購入費」は、在宅介護で必要になることが多い費用です。これらは限度額とは別の枠なので、限度額が逼迫していても活用できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 限度額を使い切らなかった月の分は、翌月に繰り越せますか?
区分支給限度額は月単位でリセットされます。使い切らなかった分を翌月に繰り越すことはできません。逆に言えば、必要なサービスを使わずに遠慮する必要もありません。適切なサービスを毎月使い切ることが理想的です。
Q. 急に状態が悪くなり、今の限度額では足りなくなりました。どうすればいいですか?
まずケアマネジャーに連絡し、現状を伝えてください。要介護度の区分変更申請が必要かどうかを一緒に判断してもらえます。申請から結果が出るまでに数週間かかることがありますが、緊急性が高い場合は暫定的なケアプランを作成してもらうことも可能です。また、区分変更で限度額が上がっても対応できるよう、サービスの優先順位を整理しておくと安心です。
Q. 自己負担が1割か2割か3割か、どうやって確認できますか?
自己負担割合は、介護保険の被保険者証(介護保険証)と一緒に送られてくる「負担割合証」に記載されています。紛失した場合は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口で確認できます。所得に応じて1割・2割・3割に分かれており、毎年8月に見直されます。決まり方の詳細は介護保険負担割合証はいつ届く?で解説しています。
Q. 「区分支給限度額」と「区分支給限度基準額」は違うものですか?
同じものです。法律上の正式名称は「区分支給限度基準額」で、介護保険法では要介護の人について「居宅介護サービス費等区分支給限度基準額」(第43条第1項)、要支援の人について「介護予防サービス費等区分支給限度基準額」(第55条第1項)と定められています。日常的には「区分支給限度額」「支給限度額」「限度額」と略されます。
Q. 限度額は全国どこでも同じですか?
単位数は全国共通ですが、2つの例外があります。1つは金額で、1単位の単価が地域区分(8区分)によって10円〜11.40円と変わるため、円に直すと都市部のほうが大きくなります。もう1つは制度で、市町村は条例で限度額に上乗せができ(法第43条第3項)、逆にサービスの種類ごとに上限(種類支給限度基準額)を設けることもできます(同第4項・第5項)。気になる場合はお住まいの市区町村の窓口かケアマネジャーに確認してください。
Q. 限度額を超えた分は、高額介護サービス費で戻ってきますか?
戻ってきません。高額介護サービス費の対象は、介護保険が適用されたサービスの1〜3割負担の部分です。限度額を超えて全額自己負担になった分は対象外です。福祉用具の購入費や住宅改修費、施設の食費・居住費も対象外です。
Q. 福祉用具のレンタルも限度額に含まれますか?
含まれます。福祉用具貸与は毎月一定の単位数を使い続けるため、借りている間はずっと枠を使います。介護ベッド・車いす・手すりなどを複数借りると積み上がりやすいので、使わなくなった用具が残っていないかを定期的に見直してください。一方で特定福祉用具販売(購入)と住宅改修は限度額の外なので、枠が苦しくても利用できます。
まとめ
区分支給限度額についてまとめます。
- 正式名称は区分支給限度基準額(介護保険法 第43条・第55条)。1か月に介護保険で使えるサービスの上限
- 上限は「円」ではなく「単位」で決まる。1単位の単価は地域区分とサービスの人件費割合で10円〜11.40円
- 単位数は令和元年10月から変わっていない(要支援1の5,032単位〜要介護5の36,217単位)
- 限度額を超えた分は全額(10割)自己負担。高額介護サービス費でも戻ってこない
- 市町村は条例で限度額を上乗せできる/逆に種類ごとの上限を設けることもできる=全国一律ではない
- 福祉用具のレンタルは枠の中。使っていない用具が残っていないかを見直す
- 住宅改修費(20万円)・特定福祉用具販売(年10万円)・ケアプラン作成は枠の外
- 特別地域加算や介護職員処遇改善加算など、一部の加算は限度額の対象外
- 足りなくなったら、まずケアマネジャーに相談。区分変更申請も選択肢
「限度額だから仕方ない」と諦める前に、まずケアマネジャーに相談してください。サービスの見直しや区分変更申請など、状況を改善できる方法が見つかることがよくあります。介護保険は、正しく理解して使うことで、生活を大きく助けてくれる制度です。


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