「手すりをつけたいけど、介護保険って使えるの?」「工事する前に何か手続きが必要?」——住宅改修を考え始めた時、こうした疑問を持つ方は多いです。介護保険の住宅改修は、最大20万円の工事費用のうち7〜9割を介護保険から補助してもらえる非常にお得な制度です。ただし、工事を始める前に申請しないと、原則として補助が受けられないという落とし穴があります。
この記事では、元福祉用具専門相談員が住宅改修の対象工事・申請の流れ・上限20万円の賢い使い方・絶対に知っておくべき注意点をわかりやすく解説します。
▶ 動画でも解説しています(約3分)
住宅改修で介護保険が使える6種類の工事
介護保険の住宅改修として認められる工事は、以下の6種類に限定されています。これ以外の工事(壁紙の張り替えや窓の断熱工事など)は対象外です。
| 工事の種類 | 具体例 |
|---|---|
| ① 手すりの取付け | 廊下・トイレ・浴室・玄関・階段への手すり設置 |
| ② 段差の解消 | 玄関・廊下・居室の段差をなくすスロープ設置等 |
| ③ 滑り防止・移動円滑化の床材変更 | 畳→フローリング、タイル→滑り止め床材への変更 |
| ④ 引き戸等への扉変更 | 開き戸→引き戸・折り戸・アコーディオンカーテンへの取り替え |
| ⑤ 洋式便器等への便器変更 | 和式便器→洋式便器への取り替え |
| ⑥ 上記に付帯する工事 | 手すり設置のための下地補強工事など |
最もよく行われるのは「手すりの取付け」です。玄関・廊下・浴室・トイレなど複数の場所に設置することが多く、1箇所では数万円でも、まとめると20万円近くになることもあります。
補助額・自己負担はいくら?
住宅改修の支給限度基準額は20万円です(1回限りではなく、介護の必要の程度が制度上の基準で3段階以上重くなった場合や転居した場合などに、改めて設定されます)。
| 所得区分 | 自己負担割合 | 20万円の工事の場合の自己負担 |
|---|---|---|
| 一般(1割負担) | 1割 | 約2万円 |
| 一定以上所得(2割負担) | 2割 | 約4万円 |
| 現役並み所得(3割負担) | 3割 | 約6万円 |
工事費が20万円を超えた部分は、全額自己負担になります。20万円以内に収まるよう計画することが大切です。
この住宅改修費をいくら使ったかという情報も、介護情報基盤で共有される対象に入っています。これまでは「以前いくら使ったか」が家族にも分からなくなりがちで、引っ越しをまたぐとなおさらでした。詳しくは介護情報基盤とは?をご覧ください。
申請の流れ【工事前の申請が大前提】
住宅改修で最も多いトラブルが「工事を先にしてしまった」ことです。「急いでいたから」「知らなかった」という理由では、工事を始めたあとの申請は原則として認められません(入院など、やむを得ない事情があるときの扱いは市区町村によって異なります)。必ず以下の順番を守ってください。
- Step1: ケアマネジャーに相談——改修の必要性を確認し、理由書を作成してもらう。ケアマネジャーが現地を確認した上で「なぜこの改修が必要か」を書類にします
- Step2: 施工業者から見積もりを取得——複数社の相見積もりを推奨。市区町村によっては業者の指定がある場合もあるので確認を
- Step3: 市区町村に事前申請——必要書類:支給申請書・理由書・見積書・完成予定図・工事前の写真など(本人が家の所有者でないときは所有者の承諾書も。書類は市区町村によって違います)
- Step4: 市区町村の確認結果(承認)を受け取る——審査にかかる期間は市区町村によって違います
- Step5: 工事を実施する——市区町村の確認が終わってから着工。工事前と工事後の写真を必ず撮影する
- Step6: 工事後の申請(完了の報告)——領収書・工事内訳書・工事前後の写真などを提出
- Step7: 給付を受ける——基本は、いったん全額を払って後日7〜9割の給付を受ける「償還払い」です。市区町村によっては、自己負担分だけを払う「受領委任払い」(市区町村に登録された業者に限るなど条件は自治体ごと)を使える場合もあります
申請に必要な書類チェックリスト
事前申請で必要な書類
- 介護保険住宅改修費支給申請書
- 住宅改修が必要な理由書(ケアマネジャーなどが作成)
- 工事費見積書
- 完成予定の状態がわかる図面または写真
- 工事前の現状写真(場所ごとに撮影・撮影日がわかるもの)
- 住宅の所有者の承諾書(本人が所有者でない場合。賃貸など。提出の時期は市区町村によって違います)
工事後の申請(完了の報告)で必要な書類
- 領収書
- 工事費内訳書
- 工事前・工事後の写真(撮影日がわかるもの)
上限20万円の賢い使い方
住宅改修は、20万円の上限内であれば複数の箇所・種類の工事を組み合わせることができます。一度に全部やる必要はなく、優先順位をつけながら計画的に進めることもできます。
優先順位の考え方としては、「今最も転倒リスクが高い場所から」が基本です。多くの場合、以下の順番で検討されることが多いです。
- 1位:浴室の手すり——濡れた床での転倒は骨折につながりやすく、リスクが高い場所です
- 2位:玄関の手すり——毎日必ず使う動作(靴の脱ぎ履き・段差越え)での転倒予防に有効です
- 3位:トイレの手すり——立ち上がり動作の支えとして、夜間の利用時のリスクを下げます
- 4位:廊下・階段の手すり——移動ルート全体の安全を確保します
一度使った後でも、介護の必要の程度が制度上の基準で3段階以上重くなった場合や転居した場合などは、改めて限度額が設定される場合があります。詳細はケアマネジャーに確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 工事を先に始めてしまいました。補助は受けられますか?
原則として、工事を始めたあとの申請は認められません。「急いでいた」「知らなかった」という理由では、工事後の申請で補助を受けることは難しいのが実情です。入院など、やむを得ない事情があるときの扱いは市区町村によって異なるので、気づいた時点ですぐに窓口へ相談してください。今後のために「工事の前にまずケアマネジャーへ」を徹底してください。
Q. 賃貸に住んでいますが、住宅改修はできますか?
賃貸でも住宅改修は申請できます。ただし、家の持ち主が本人でない場合は、「建物所有者(家主)の承諾書」が必要になります(提出の時期は市区町村によって違います)。また、退去時に原状回復が必要な場合もありますので、工事前に家主と条件を確認しておきましょう。
Q. 手すり1本だけでも住宅改修として申請できますか?
はい、手すり1本の設置からでも申請できます。「大がかりな工事になるのでは?」という心配は不要です。「最近ちょっと怖い」と感じた段階で相談し、まず小さな工事から始めることで、早期に安全を確保できます。早めに動くほど選択肢が広がります。
専門相談員からひと言
「もう工事してしまった…」というご相談を何度か受けたことがあります。その場合、残念ながら補助を受けることができません。「工事の前にまずケアマネジャーへ」——これだけ覚えておけば大丈夫です。
すぐに固定式の工事に踏み切らず、まず工事不要の置き型手すりで試してから住宅改修を検討する流れもよくあります。どの位置に手すりがあると使いやすいかを確認してから工事に進むと、「思っていた場所と違った」という後悔を防げます。置き型手すりの選び方は「手すりのおすすめと選び方」で解説しています。
まとめ
介護保険の住宅改修は、上限20万円の工事費のうち7〜9割を補助してもらえる制度です。ただし、工事前の申請が大前提。「工事の前にケアマネジャーへ相談→事前申請→市区町村の確認後に着工」の順番を守ることが最も大切です。
一度に全部やる必要はありません。転倒リスクが高い場所から優先順位をつけて、計画的に進めてください。早めの相談・早めの申請が、大きな事故を防ぐことにつながります。
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高額な福祉用具は、購入前に介護保険レンタルの対象になるか、工事不要手すりのレンタル・選び方をご確認ください。
家全体の転倒予防を考えたい方は、親が家で暮らし続けるための住宅改修ガイド|転倒予防まとめもあわせてご覧ください。
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手すりを付けたのに、親は転んだ
申請でつまずく8つの場面を8章にまとめてあります。着工前の申請、按分、償還払いと受領委任払い、写真の求められ方まで。
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