外では杖や歩行器を使うのに、家の中では使わない。こうしたケースは、介護の現場でも少なくありません。
家族から見ると「家の中こそ転びそうで心配」と感じる一方で、本人は「慣れているから大丈夫」「狭いから邪魔」と考えていることがあります。どちらの気持ちにも理由があります。
この記事では、家の中で杖や歩行器を使わない理由と、室内で起こりやすい転倒リスク、無理に使わせる前に考えたい生活動線の見直し方をやさしく整理します。
家の中では使わない人は少なくない
外出時は杖を持つのに、家に帰ると玄関に置いたまま。歩行器は外では使うけれど、室内では壁づたいに歩く。こうした方は珍しくありません。
本人にとって家は、長年暮らしてきた慣れた場所です。「どこに何があるか分かっている」「少しなら壁を持てば歩ける」と感じていることがあります。
また、室内は廊下が狭かったり、家具が多かったり、トイレ入口で方向転換が必要だったりします。歩行器を使いたくても使いにくい家もあります。そのため、「家の中で使わない=本人だけが悪い」とは言い切れません。
杖や歩行器を嫌がる背景には、見た目への抵抗や「まだ大丈夫」という気持ちもあります。本人の気持ちについては、親が杖を嫌がる理由と対処法や、シルバーカーや歩行器を嫌がる理由も参考になります。
実は転倒は家の中でも起きやすい
「外のほうが危ない」と思われがちですが、家の中にも転倒しやすい場面はたくさんあります。慣れている場所だからこそ、油断しやすいこともあります。
- ベッドや椅子から立ち上がった直後
- トイレ前で急いで方向転換する時
- 夜間に寝室からトイレへ移動する時
- ベッド周囲で布団やマットにつまずく時
- 靴下やスリッパで床が滑る時
- カーペットや敷居の小さな段差につまずく時
- 照明をつける前に歩き出す時
特に立ち上がり直後は、足に力が入りにくかったり、ふらつきが出たりしやすい時間です。夜間トイレのように「急いでいる」「暗い」「眠い」が重なる場面では、家の中でも危険が高くなります。
こたつや畳に座る生活では、床から立ち上がる時に膝や股関節へ負担がかかり、立った直後にふらつくことがあります。和室生活を続けるための工夫は、こたつから立てない…でも紹介しています。
布団や低いベッドから立ち上がる時に時間がかかる、ベッド端でふらつくといった場合は、寝室まわりの環境も見直す目安です。介護ベッドを迷う時の考え方は、介護ベッドはまだ早い?でも解説しています。
夜間トイレでは、暗さやふらつきだけでなく、トイレスリッパへの履き替えや寝室からトイレまでの生活動線も転倒リスクになります。具体的な対策は、夜間トイレの転倒リスクと対策でも詳しく解説しています。
大切なのは、家の中を怖がらせることではありません。どの動作で不安が出ているのか、どこで手を伸ばしているのかを家族が一緒に見ていくことです。
「手すりや壁があるから大丈夫」とは限らない
家の中では、壁、靴箱、テーブル、タンスなどを支えにして歩いている方もいます。ただ、家具や壁を持てているから安全とは限りません。
たとえば、玄関で靴箱を持って立ち上がる、トイレ前でドア枠をつかむ、廊下で家具から家具へ手を伸ばす。こうした動作では、手を持ち替える瞬間に体が不安定になることがあります。
また、手すりが設置されていても、本人が実際に歩く動線と合っていないと使われません。必要な場所より少し遠い、立ち上がる向きと合わない、トイレ入口で手が届かない、といった場合は、手すりがあっても危険が残ることがあります。
手すりを付けても、持ち替えが多かったり、トイレ前の方向転換で支えが途切れたりすると不安定さが残ることがあります。詳しくは手すりを付けたのに転ぶ理由でも解説しています。
工事をせずに使える手すりを検討したい場合は、工事不要手すりの選び方を確認してみてください。手すりを単体で考えるより、生活の流れで見直したい方は、手すりと生活動線の記事も参考になります。
歩行器が使いにくい家もある
歩行器は安定性を高めやすい一方で、家の中では使いにくいこともあります。
- 廊下が狭くて通りにくい
- 曲がり角で方向転換しにくい
- 敷居や小さな段差で引っかかる
- トイレ入口で幅が合わない
- カーペットやマットで車輪が動きにくい
- 家具が多く、置き場所に困る
このような環境では、本人が「家の中では歩行器を使わない」と言うのも自然な面があります。使わない理由が、単なる拒否ではなく「本当に使いにくい」こともあるからです。
歩行器とシルバーカーのどちらが合うか迷う場合は、本人のADLや外出状況もあわせて考える必要があります。違いを整理したい方は、歩行器とシルバーカーの違いも参考にしてください。
外ではスーパーのカートを支えにして歩けていても、カートは歩行補助具ではないため、方向転換や荷物の重さで不安定になることがあります。買い物中の支え方については、スーパーのカートで歩くのは危険?も参考になります。
無理に使わせるより、使いやすい環境づくりも大切
家族としては、転倒が心配で「家の中でも杖を使って」と言いたくなることがあります。ただ、本人が嫌がっている状態で無理に使わせようとすると、かえって反発が強くなることもあります。
まずは、家の中のどこで危ない動作があるかを一緒に確認してみましょう。
- 外では杖、家では手すりを使う
- 夜間トイレの動線だけ手すりを増やす
- 寝室からトイレまでのマットや段差を見直す
- 歩行器をレンタルで試し、廊下やトイレ前を通れるか確認する
- 家具の配置を少し変えて、つかまり歩きの危険を減らす
環境を整える方法は、杖や歩行器だけではありません。手すりの位置を見直したり、段差を解消したり、家具の配置を変えて動線を短くしたりすることで、家の中でも動きやすくなる場合があります。
ただし、「工事すればOK」と考えるより、本人の動き方、家族の介助のしやすさ、家の間取りを合わせて考えることが大切です。トイレ入口や廊下の曲がり角では、実際に歩行器が通れると思っていても、方向転換が難しいことがあります。まずはレンタルで歩行器や手すりを試し、「本当に通れるか」「本人が使いやすいか」を生活動線の中で確認してから、住宅改修を考えるケースもあります。
退院直後などは、住宅改修の工事が間に合わないこともあります。その場合は、仮設手すりやレンタルできる福祉用具で先に安全を確保し、その後に段差解消や手すり工事を検討する流れもあります。工事不要の支えを先に確認したい方は工事不要手すりの選び方、手すりの位置や生活動線を整理したい方は手すりと生活動線も参考にしてください。福祉用具と住宅改修をどの順番で考えるか迷う場合は、福祉用具導入タイミングまとめで全体像を確認してみましょう。
「家の中でも必ず歩行器を使う」と決めるより、本人の生活動線に合う支えを選ぶほうが続きやすいことがあります。福祉用具をいつから考えるか迷う場合は、福祉用具導入タイミングまとめもあわせて確認してみてください。
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室内での転倒や生活動線が気になる方は、こちらの記事も参考にしてください。
転ばず生活を続けるために考えたいこと
杖や歩行器、手すりは「弱った証」ではありません。家の中で安全に動き、トイレへ行く、食事をする、外出の準備をする。そうした毎日の生活を続けるための道具です。
本人が家の中で使いたがらない時は、「なぜ使わないのか」を責めるのではなく、「どこなら使いやすいか」「何が邪魔になっているか」を一緒に考えることが大切です。
家の中は慣れている場所ですが、立ち上がり、夜間移動、トイレ前、方向転換など、転倒しやすい動作もあります。本人の気持ちを大切にしながら、転ばず生活を続けるための環境づくりを少しずつ進めていきましょう。


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